院長ブログ

2026.07.19

平行線をひく

数学を学ぶメリットの一つに”視点を変える”が挙げられる。
数学、特に幾何(図形系の問題)が苦手だったアン・シャーリーは赤毛のアンの中で「先生は黒板へ、本にあるのとまるっきり違った問題を出すの」とマシューに愚痴る。アンのライバル、幾何が得意なギルバートには、問題の形が変わっても本質は同じように見えていたはずだ。
例えば「三角形の内角が180度であることを証明しなさい」という問題は、三角形の1つの辺を延長し、そ頂点を通る平行線を一本引くことで答に近づく。数学が教えてくれるのは答えそのものではなく、この一本の平行線を引く視点なのだ。
仕事でも日常でも、私たちはしばしばこの”平行線を引く”ことが求められる。
先日の患者はすでに内科を2件受診しており、処方された抗生剤をきっちり飲んでいるにもかかわらず、のどが痛くて1週間高熱が続き2件目の総合病院の内科で耳鼻科受診を勧められたのだった。私は耳鼻科代表だ。のどが痛みの原因が「わからない」では済ませられない。。
まずは上気道の粘膜の声を聴いてみる。粘膜は発熱の影響もあって充血気味だが熱の原因はない。彼等は「何とか健康にやっているよ」と私に語っている。実際、発熱でだるくて食欲はなく3㎏やせたが、食べられるという。1週間続く熱がのどが原因ならば、食べられることはまずない。
視点を変えよう、痛みを訴えるのどから首へ、甲状腺のあたりをそっと触れてみる。「痛いっ!」。首に触れたことは、平行線を引くことであり、私は答えに達した。後は採血で甲状腺ホルモンの値を調べればよい。
亜急性甲状腺炎はウイルス性の甲状腺の炎症で、そのせいで甲状腺ホルモンが漏れ出るので動悸、倦怠感、体重減少などの症状が数週間続く。ウイルス性なので抗生剤の効果はない。そして、患者は甲状腺が痛いとはまず言わない。のどが痛いとしばしば訴える。その後、炎症が速く収まる薬を投与すると、1週間続いた発熱とのどの痛みは2時間で消えていった。
正直に言うと、最初に診察する立場だったら解けていた自信はない。病気は後からの方が易しい問題になるし、前の治療法が効かないというのは重要な情報でもある。だいたい亜急性甲状腺炎は当院では年に1人いるかいないかで、のどが痛くて本当にのどの病気の方が圧倒的に多いから、思考も多いほうに偏って当然だ。
流行のAIはどう答えるのだろう?私はChatGPTに患者を装い相談してみた。「のどが痛くて1週間熱が続き、抗生剤が効かない」ではウイルス性の咽頭炎、心内膜炎、結核、リウマチなど20個くらいの病気を挙げてきた。「3㎏やせた」を入れると、癌も加わった。「耳鼻科では咽頭に異常がなかったけど、首の前が痛い」といれると、さすが!AI!この病気に絞ってきた。
「亜急性甲状腺炎が最も疑わしいです。耳鼻咽喉科よりは内科の方を受診しましょう」って、失礼しちゃうわっ!