院長ブログ

2026.06.15

嚥と燕

ちくわを二つ前後にくっつけてみる。でもこれではボリューム不足なので周りをひき肉で固めてからオーブンで200℃40分で焼いてみた。
次に後ろのちくわだけにスープを注ごうと考えてみて欲しい。前のちくわに入らないように蓋(ふた)をするだろう。もっと確実にスープが一滴も前のちくわに入らないようにするには、前のちくわを少し上げて、ちくわ同士の面をずらして蓋(ふた)をする方が効果的だ。
少々強引だが、この写真を首の断面図とする。前のちくわが気管、後ろのちくわが食道にあたる。前のちくわが押し上げられ蓋(ふた)がされ、後ろのちくわに食べ物が入ることを嚥下という。書けば簡単だが、この嚥下には5つの脳神経と、20以上の筋肉の連動が必要となる。
受精卵が人になる時、まず丸まってチューブを作る。最初に出来るのが食べ物用の口から腸で、次にできるのが空気用の気管。隣り合ってしまったために、誤嚥しないよう多くの神経と筋肉を動員する複雑な動きと防御機能が与えられた。
生まれてからはずっと完璧なタイミングで食べものと空気を分けている。たまに、食べながらしゃべっている、両方のちくわを開けているような時にむせてしまう。むせたときにでる咳が、防御機能である。あってはいけないものを身体から排出させるために、鼻にはくしゃみ、胃腸には嘔吐があり、気管には咳がある。そして、複雑な動きと、防御機能を失った時に、誤嚥性肺炎になる。
高齢者の誤嚥性肺炎はいかに人の身体が衰えているかという証明なのかもしれない。加齢とそれに伴う病気のために誤嚥性肺炎を繰り返している人に、もう少し長く生きて欲しいと願っても、生命を引き延ばすことは難しい。
嚥下の”嚥”という漢字は口へんに燕(ツバメ)だ。ツバメのヒナは必死に首を伸ばして大きな口を開けて親から餌をもらう。その姿に口を使ってのみ込むことを古の人は見た。その目の確かさに、私はこの時期のツバメの子育てを見ながら感服する。そんなふうに昔から人のそばにはツバメがいたから、落ちたツバメを拾って育てることも、途中で亡くしたこともあったろう。
5年前、昨年に続き、ツバメ救護所のような我が家は、今年は毛も生えていないぐったりしたヒナを拾った。最初の危機を越え、スタッフから餌をもらえるほど元気になって、次は巣立ちと夢見ていたけど、急に何を与えても食べず、強制的に口を開けようとしても拒んだ。嚥下の由来の燕(ツバメ)がのみ込まないなんて。無理やり餌をやることもできたが、彼(彼女?)の残り少ない生きている時間を、そんなことに費やしたくなくて、クチバシに水滴をつけるくらいで見守っていた。結局2週間生きて空に還った。
この喪失感を癒す漢字を誰か教えてくれないか。