院長ブログ
2026.05.26
そして霊長類
ハクビシンは最初に仕掛けた罠に2匹が捕まり、それっきりだった。後悔ができるホ乳類はパターンを学習できる。仕掛けが同じリンゴだったから、群れの仲間は捕まったパターンを学習したのだろう。
数億年かけて魚類からハ虫類までにやったのは身体を大きくしたことで、ティラノサウルスは12mの肉食恐竜だ。対するホ乳類は脳を大きくしていった。6千万年前のホ乳類に比べ、霊長類のチンパンジーは1000倍脳が大きい。
ロビン・ダンバーは霊長類は社会集団が大きければ、脳も大きくなっていることを発見した。その方程式に当てはめると私たち人間は150人になるという。これをダンバー数といい、安定的な社会関係を維持できる上限の人数と考えられている。
しかしこれは霊長類にしか当てはまらない。ヌーの集団は数万と大きいが、単独行動するヘラジカと脳の大きさは大して変わらない。野生動物のドキュメンタリーでヌーの大移動は割とつまらない。それはヌーには政治がないからだと思っている。
母親はホ乳類の霊長類に属する。以前のブログ(「推しの死」)で紹介した彼女の政治について抜粋しよう。訪問してくる友人達に対して母親は千疋屋の桃、富山では有名なブランデーケーキ、源吉兆庵のゼリーという3枚のカードがあった。
私「熟してきたし、そろそろ桃出す?」
母「彼女はブランデーケーキの方が喜ぶと思う」
私「源吉兆庵は?」
母「ん?それはね、その価値がわかる人を考えてからな~」
友人たちが何を好むか、何を知って何を知らないかについて母親は考えを持っていた。この相手の意図や知識を推測することを”心の理論”という。
心の理論を使って霊長類は社会的階層の安定を得ているので、脳の大きさと集団の大きさが相関するのだ。心の理論を測るテストとして有名なものに「アンとサリー課題」がある。

(アンとサリー課題)
この問題に参加した者は、自分とサリーは違う知識を持っていることを理解している必要がある。(正解はカゴ)
チンパンジーはこの手の課題を難なく解く。意外なことに共感力がある犬の正解率は50%くらいだそうだ。これは飼い主の意図を読んで共感するというより、犬には主人の感情がうつるのではないだろうか?犬が見せる打算のない共感を愛する人間は多い。
霊長類独自の神経構造は、「相手の立場にいる自分を想像(シミュレーション)することで相手を理解する」という働きをする。政治をする霊長類は他者を知る必要があり、まずそれには「汝自身を知る」ことが大事なのだ。自分のことを考えることと、他人を考えることは脳のなかでは同じ過程なのだから。
生涯の友人(或いは伴侶)とは、まだ自分が未熟な時に出会う。一生を分かち合える関係になるには、お互いの成長を必要とする、と言うことなのだろうか。確かに年をとってから友人を作るのは難しい。
この霊長類独自の脳を損傷した人は他人の感情を認識するのが苦手になり、共感するのに苦労し、冗談と本当を見分けることができなく、誰かを傷つける発言を平気でしてしまう。他の霊長類だってアンとサリーのような課題が解けなくなる。
霊長類の母親は友人達に自分を理解してもらうため愚痴を言い、共感や慰めを得ていた。夜中の騒音に疲弊した心には必要だったろう。さらに空き家問題として市役所、不動産屋、実際問題として駆除業者、大工さんたちと連絡をとり多方面からハクビシン包囲網を築き駆逐していった。霊長類の政治力がホ乳類に勝利したのだった。