院長ブログ

2026.05.06

知能の誕生

実家に住む母親はこの2か月間、天井裏をハクビシンが夜な夜な動き回るのせいですっかり睡眠不足になっていた。
古い雪国の家屋にはありがちな隣の家との壁の隙間が非常に狭い構造で、おまけに隣は数十年空き家、当然壁の手入れなどされていなく、朽ちた場所からハクビシンはフリーパスで入ってくる。両隣が空き家の中で、天井裏が暖かい実家はちょうど子育てを始めようとする彼らにとってはビバリーヒルズのような所なのだ。
前回のブログで知能とは「生物が環境の中で生存と繁栄のためにどれだけ最適に答えられるか」だと書いた。そう考えるとこれは単なる空き家問題というより、ハクビシンと母親(と駆除業者)の知恵比べにも見えてくる。ということで帰省している間、知能の誕生ついて考えてみた。
35億年前に今いるすべての生物の祖先が誕生してから、まず25億年前に光合成をする生物(現在の植物につながる)が生まれ、次いで20億年前に光合成で出てきた酸素を呼吸する生物(動物につながる)が誕生した。
生物が少ないときはのんびりした楽園のような海のなかも、その数が増えるにしたがって、自分が生きる場所を確保しなければならず、だんだんバーゲン会場のような熱気を帯びることになった。その頃の生物には肘はないが、もしあれば押しあっていただろう。
そして動物がエネルギーを得るには酸素だけでなく糖を必要とする。その糖は他の生物から奪うしかない。呼吸する動物の誕生は「楽園の終わり」を意味していた。
そんな軍拡時代の5.5億年前に台頭してきたのが、線虫(ミミズのような形)のような左右対称な動物である。ちなみに現在の地球上のほとんどすべての動物が左右対称で、それ以外はイソギンチャクのような放射対称の動物である。もし、地球以外に知的生命体がいるとしたら、ボディプラン(身体の形)は左右対称であろうと考えられている。ハリウッドはこの点では正しかった。エイリアンにしてもプレデターにしても左右対称だ。
左右対称の動物が繁栄した理由の一つは、この形なら進む、向きを変えるという2点だけで、どんな空間も効率よく移動できるからだ。何か乗り物を思い浮かべて欲しい。ほとんどすべては左右対称だろう。もう一つはこの運動を可能にするために脳が生まれたことだ。
線虫は302個の神経細胞からなる脳を持つ(人間は860億)。この302個でエサの匂いが強まったら進み、匂いが弱まったら向きを変える、光を避け、快適な温度へ移動し、安全な足場を選ぶなど、環境に対して一貫したルールで行動し、結果として生存確率を上げている。これが、知能の最も原初的な仕組みなのだと思う。そしてどちらに動くか、”いい””悪い”を区別することが情動の原型ではないだろうか。知能と情動は一体化したものなのだ。
その線虫は敵の匂いを嗅がせると匂いが無くなった後でもしばらく動揺が収まらない行動をとる。情動の特徴は外からの刺激によって起こされることが多いにもかかわらず、その刺激が無くなった後も感情として長く持続することである。この特徴は線虫から人間にも引き継がれており、だから人間も不機嫌が長続きしてしまうのだ。
母親は「ハクビシン、はがやしいわ(”はがゆい”の富山弁)」と食事の間もハクビシンのことを考え不機嫌になっていた。線虫から続いている(5.5億年)ものなら、私が何を言ったって収まるときにおさまるしかない。黙って聞いていよう。