院長ブログ

2023.07.09

がいじ道真菌症

外耳道真菌症はまるでナウシカの世界だ。
ナウシカの世界とは巨大産業文明が栄え、衰退し、火の7日間と呼ばれる戦争から千年経った時代で、そこでは有毒ガス=瘴気(しょうき)を産生する”腐海”という生態系が地球を覆おうとしており、人類は瘴気を吸うと死に至るので、この腐海におびえながら細々と暮らしている。

さて、外耳道真菌症とは外耳道にカビが生えてしまった病気だ。(外耳道についてあらかじめ知りたい人は以前のブログ「がいじ道」シリーズを参照してください)
考えれば外耳道は鼓膜までの閉鎖された空間で換気が悪く、湿気もあり、外に開いているぶん体温より少し低いのでカビが増えやすい。ただ、外耳道の皮膚が健康ならばどんなにかび臭い部屋で生活しようとも外耳道にカビが生えることは無い。カビが生えるには空気と水が必要だからだ。
外耳道にカビが生えるメカニズムを説明しよう。まず耳そうじを頻回にしてしまうことだ。皮膚の健康を損なうと、外耳道に傷ができる。次にそこに胞子が付いた耳かきを入れ、胞子が傷につくと傷から水分を得て芽を出す。瘴気こそ出さないがこの芽から菌糸を伸ばしてその先に新しい胞子を作る。

(腐海の様な外耳道の真菌)

ナウシカでの腐海は、火の7日間で汚れた世界をきれいにするために生まれた。火の7日間とは巨大産業文明を作ったが人類が驕った結果の最終戦争だった。この人類の愚かな行為によって腐海が生まれたことを思うと、外耳道真菌症をおこす一連の行為は”火の7日間”的行為と言えるだろう。

顕微鏡でこの外耳道真菌症に出会うと私はとっさに息を止める。そしてナウシカのように「少し、肺に入った」と独り言ちてみる。現実にはカビは普通に空気中を漂っていて毎日肺に入ってるけどね。そして気を取り直して、患者さんに外耳道にカビが生えていることを伝える。この時も「汚れているのは外耳道なんです。カビは悪くない」と心でつぶやきながら。
さぁ、治療開始だ!私は吸引管を握りしめ、胞子を吸っていく。この時はまるで巨神兵になった気分だ。クシャナの「なぎ払え!」の声が頭に響く。だって胞子を残すと再発するんだもの。
胞子、菌糸を外耳道の全周に渡って吸っていくと、最深部に胞子の付着地点が現れる。そこにはまだ乾かないカサブタを取った時のような肉肉しい組織がある。まるで土鬼(ドルク)の聖都、シュワの墓地を思わせるかのようだ。漫画版ナウシカのラストはナウシカがオーマと名付けた巨神兵がシュワの墓地を破壊する。
私も最後はオーマになろう。オーマの光による攻撃は私にとってはカビの軟膏だ!
シュワの墓地にカビの軟膏を塗る。これで、世界は再生に向かう。そしてオーマは患者さんに言う。
「カビガ、サイハツシナイカ、タシカメル、ライシュウ、キテ。。。」