院長ブログ

2017.10.15

ファストアンドスロー

土曜の診療が終わって浜松に講習会に出かけました。
内容は
1999年に起こった横浜市立大学の患者取り違え事件から始まった医療安全への取り組みです。

この事件について簡単に説明すると、取り違えられ、心臓手術を受けるべき人が肺手術を、肺手術を受けるべき人が心臓手術を受けてしまい、すべてが終わってから気が付かれたという顛末です。
医療事故としては当時の日本を震撼させたレベルでした。

1999年からさかのぼること3年、1996年私は焼津市立病院の麻酔科で研修を受けていました。麻酔科のメインの仕事は手術麻酔で、焼津では必ず患者さんを手術室の前で迎え名前と手術内容を確認して入室するというルールがありました。研修最初の日に指導医(当時40代後半)からこのルールを徹底するように言われたとき「信じられないかもしれないけど、手術の左右間違いってあるんだよ」と。一本気の研修医なんかは4歳くらいの子供に「何々ちゃんですね」「うぁーん」「何々ちゃんだよね」「うわわわぁーん」を繰り返し指導医に「いいからさっさと入室させろー」と怒られていましたが。


さて先の事件、麻酔科医は手術前の検査より心臓の機能が良いけど???まあ。人工心肺だからか。執刀医はあれ?肺に腫瘍ないけどな、でも違うところに嚢胞があるからこれだったのか?
“おかしい”はあったけど、そのまま進んでしまいました。

1999年からさかのぼること17年前心理学者のダニエルカーネマンは「人は間違える、愚かだから間違えるのではなく、意思決定をするときの脳は“速い思考”=ファスト(直観など)と“遅い思考”=スロー(熟考)があり、脳の負担が軽い速い思考に頼る部分が大きいとミスにつながりやすい」という説を発表しました。この論文からは、麻酔科医や執刀医は“なんかおかしい”を感じてはいたけど、つじつまが合うことが見つかるとそれに乗っかってしまい、その違和感について“遅い思考”を使うことを止めたと、分析できるでしょう。難しい説明になったかもしれませんが「思いこんじゃって、間違えちゃった」って誰でも経験があるのではないでしょうか。

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私のつたない文章で興味を持たれた方はこの本をどうぞ。
この人間の意思決定について、ダニエルカーネマンの研究は2002年のノーベル経済学賞を受賞しました。
そして、この研究を発展させ行動経済学として応用が今年のノーベル経済学賞でした。
文字数が多いブログになるのはしょうがないのです。