院長ブログ
2025.06.29
副鼻腔真菌症~カビと生きる~
映画「ライオンキング」は冒頭、「サークルオブライフ」の曲をバックに、様々な生き物がシンバの誕生を祝い集まる。ゾウ、キリン、シマウマや極彩色の鳥類などの中で、昆虫類で唯一参加しているのは”ハキリアリ”だ。アフリカにいないのに。これはディズニー社が昆虫の中でハキリアリを特別視しているということに他ならない。何が特別なのか?。ハキリアリは”農業をするアリ”なのである。
ハキリアリが育てているのはカビ(=真菌)、身近でいうとキノコだ。取ってきた葉っぱでキノコを栽培して食べる自給自足の生活をしている。人もカビを育てる。人がそれを始めたのはせいぜい江戸時代あたりで、6000万年前に始めたハキリアリのはるか後輩になる。でもまあ、外で育てる分にはキノコとして食べればよいだけのこと。ところが人の体の中で育ててしまうと、足の皮膚ならば”水虫”、外耳道ならば”外耳道真菌症”、そして副鼻腔の中で育てると”副鼻腔真菌症”となる。と、いうわけで今回は副鼻腔真菌症について考えてみよう。
(健康な副鼻腔のレントゲン)
副鼻腔は顔の中に在る。写真でわかるように空洞だ。空洞とは何もないわけではなく、壁一面に薄い粘膜をまとい、そこからの粘液で洞内を潤わせ、吸った空気を加温&加湿、さらにホコリや病原体を捉え排出している。健康な副鼻腔は、粘膜を構成する細胞と常在菌によるバランスの良い生態系を成してまるでオアシスのようだ。空気を吸えばカビは入ってくるが、オアシスにカビが生える要素はない。けれどその生態系が壊れたときに、まるで毒キノコが生えたようにカビが副鼻腔を覆ってしまう。
(健康な状態と、副鼻腔から毒キノコのような真菌の塊が出ているところ)
ハキリアリ先輩はというと、カビをそれはもう大切に育てる。危険な菌を入れないように外から帰ったら手洗いうがいは欠かさない。念には念を入れたグルーミングを全員が行う。”コロナも遠くになりにけり”となった今、人はどうだろうか?また、徹底して掃除をする。ただでさえ菌が多い地中にあって、農地を全滅させかねない病原菌を増やさないために、徹底してお掃除をする。いつも体にお掃除道具を携帯し、危ない菌が入ってくるや、特別なワックスで床をピカピカに磨く。たった一つのカビを育てる生態系を維持するために、それはもう涙ぐましい働きで環境を整えている。副鼻腔の生態系が壊れるのは免疫低下による感染しやすさであるが、人はこんなにも自分の免疫を整えているだろうか?
カットしてきた葉を苗床に栄養を与えながら育て、雑菌を取り除く。おまけに湿度、温度管理も完璧で、使用済みの畑はゴミ捨て場に直行だ。この作物を、お腹を空かせて首を振っている幼虫の口元にそっと置いて食べさせる。まさにサークルオブライフ!もうね、ヒヒになってハキリアリを空に掲げたくなったよ。
(イメージ。オリジナルの有名シーンをオマージュしてChat-GPTに作成してもらった)