院長ブログ

2022.09.25

医学の歴史

炎症真っ盛りの歯を抜く痛さと、両顎で噛めない1年間の我慢の後に私の奥歯にインプラントが入った。入れてしまえば快適に食べ物が噛めてありがたい。
調べてみるとインプラント的な考えはローマ時代からあり、抜けた歯に鉄を埋め込んでいたようだ。現在のようにインプラント治療が広まったのは1980年代からで、昭和のその頃は永久歯が抜けたら入れ歯という考えだったろう。そもそも私に至っては歯が無くなることさえ想像できない10代だったけど。そして、トリの膝軟骨を噛みながらインプラントの恩恵を噛みしめる50代になるとも想像していなかった。

インプラント治療はありがたかったけれど、医学の歴史は近年に至るまで、迷惑の黒歴史だったことを忘れてはならない。
古代の失恋の治療は”痔”と関係があると考えられていた、、、くらいはまだかわいい。
脊柱側彎症の治療は体をハシゴに固定し高いところから落とす。または大きな石を曲がっている背骨に落とす。まっすぐにはなったかもしれないが、命があっただろうか?
ピポクラテスの誓いで有名なピポクラテス先生はハシゴ治療に反対派だったらしい。
「ハシゴでまっすぐにはならない」と。
中世はなお悲惨だった。病の原因、治療の妥当も手術をする日も星占いで決められていた。
火星と木星が直線に並ぶと大気に悪い空気が満ちるらしいし、
治療が失敗してもその日が月と水が交わる日ならばしょうがないことだった。
当時の医学部の授業には星占いの理論と実践が含まれており、
法律で”医者のかばんには最新のホロスコープを入れておくこと”が定められていた。
地動説のガリレオ・ガリレイは医学を学ぶために大学にはいったけれど退学して天文学を学んだ。きっかけは授業の星占いだったかもしれない。

(ペスト患者を診るときの診察衣。棒は生きているかどうかつついて判断するため!のもの)
文化や芸術が躍動したルネッサンス時期でも、医学だけは栄光の光が当たっていなかった。
梅毒の治療は体の潰瘍を焼く、そして水銀蒸気の満ちた部屋に閉じ込める。焼かれた痛みと水銀の毒性で歯茎が腐り歯がボロボロになる。患者は死んだほうがまし。と思っただろう。
この時代より千年以上前の我が国のオオクニヌシノミコトは傷を負ったウサギに「真水で洗い水草の花をひいてそこで寝ていなさい」と助けたから(古事記より)、我が国の傷治療の方が患者に迷惑をかけなかったかもしれない。
イングランドの国王チャールズ2世は体調が悪いため、1ℓの血液を取られている。検査のためではない。悪い液を体から出すために。チャールズ2世は数日後に亡くなっている。
血を抜く治療は当時の最先端の治療だったのだろう。有名な医学誌”ランセット”は血を抜くための刃からその名をとっている。

現代の医療を学んだものにしてみれば、なんと非科学的なことを!とあきれるしかない。
効果があろうがなかろうが、学んで信じた治療を行う。そこに悪意はない。
しかし善意の思い込みは悪意より被害が大きい。。。と医療の歴史の本を読んでいると思ってしまった。
コロナウイルスと医療、政治、教育はもうすぐ客観的に検証されるだろう。
その時に一番笑いものになるのは何なんだろうか?