院長ブログ

2022.03.27

子宮頸がんワクチン

 子宮頸がんワクチン(以下HPVワクチン)の接種を国が勧めなくなってから、おおよそ10年がたった。
この10年で接種を続けていた国では、接種した世代の子宮頸がんが明らかに下がっているが、日本は罹患者が増えている。この増加は先進国では日本だけだが、接種率わずか1%(オーストラリアは89%)なのでしょうがない結果だろう。
ただ、当院では2021年に入ってから、子宮頸がんについて質問されることも多く、またHPVワクチンについて書いた以前のブログを読んでか、接種の予約が毎週途切れることなく入ってきてはいた。
そして来年度からは国が勧める定期接種になることもあり、準備のために、厚生省の研修を受けたり、メーカーからの資料を読んだりしている中で、この10年の日本の歩み(ちょっと大げさ)について考えてみた。
日本だけが子宮頸がん患者の増加+若年化がみられる結果に厚生省は頭を抱えたのだろう。まずHPVワクチン接種後に見られる多様な症状(慢性の痛みや、倦怠感、神経過敏などなど)が接種した少女だけに起きる症状なのかを調べた。全国調査の結果、HPVワクチンを接種していなくても多様な症状を訴える子が一定数いることが分かった。
この結果におそらく厚労省は「なんて自分らは少女を理解していなかったのだ!」となったに違いない。ワクチンはほとんどが乳幼児で、10代女子にワクチンを接種することは初めてだった。
いつの時代もおじさんが一番少女を理解していないのかもしれない。
次に接種する医者たちに向けて教育することにした。
症状があって、検査での異常を客観的に示せる場合はその原因を消去することが治療になる。
私たちは医学部時代から医者になっても、それをいかに正確に行うかのトレーニングをし続けていると言ってもよいだろう。
けれど主観的な訴えだけで、客観的証拠がない、例えば倦怠感を訴えてはいるが採血結果、血圧共に異常がないような場合は「検査で異常がないから、他の科で見てもらいましょう」となる。HPVワクチン接種後に多様な症状を訴える子の多くは、受診する先々で「検査で異常がないから、他の科で見てもらいましょう」が繰り返され、結果たらいまわしにされていたのだろう。
それが画面で伝わったから多くの保護者は、娘にワクチンを接種させなかったのではないだろうか。
原因を探すことを止め、個人の環境、ワクチン接種のとらえ方、感受性で様々な症状を感じる可能性がある脳の不安定さ(未知さ)を理解しよう、ということを厚生省は提案している。
私が受けた研修は3時間で、そのほとんどを「医学的に説明できる、できないは脇に置き、生活の質の向上に向けて訴えを診て欲しい」という内容が占めていた。

この10年で、子宮頸がんという病気は諸外国と比べると周回遅れにはなってしまった。
でも、上に書いたような厚生省の働きを考えると、日本らしい再生ではないか。
マイナスはマイナスだけではない。
原因を探さない診療の考え方は、いろんな人の症状を聞く医者にとっては重要な武器になりえる。
医学は未知を含んでおり、自分が無知であることを自覚するなら、私はきっと昨日より”まし”になれるだろう。