院長ブログ

2025.05.06

矢沢論

 久しぶりに会った友人が、開口一番「永ちゃんの重大発表って何かね」と聞いてきたので、私は口に含んだ乾杯のスパークリングワインを吹き出しそうになった。
彼女はいわゆるキャリアウーマンだ。一流企業の父と教師の母の下に生まれ、いいとこの子が行くイメージの付属小・中学校から県内有数の進学校に進み、両親と同じく国立大学を卒業した。そんな生い立ちの、どこに「矢沢永吉」が隠れていたのか!?30年近く付き合ってきて、気がつけなかった。彼女の深層で膨らみ、私に尋ねずにはいられなかった”矢沢”をGWをきっかけに考えてみたい。
ここで仁義を切らさせて欲しい。私もこの病院の頭はっているんで。コンサートに行ったことがない私ごときが「矢沢」と呼び捨てに書くのは”けしからん!”というコアのファンからの怒りはもっともだ。しかし、私は過去のブログにも書いているよう「語る矢沢」を尊敬している。だから「矢沢」と書いてもその後に”氏”、つまり敬意を込めて「ミスター矢沢」と表現していると思って欲しい。
参考にするのは”成りあがり”、”アー・ユー・ハッピー?”で、矢沢がビートの虜なら、私は生まれてから文字の虜なのだ。
名著”成りあがり”は広島での幼少期から始まる。3歳で両親が離婚、小2で父親が死亡、祖母に育てられる。私の友人とは正反対の極貧生活の描写が生々しい。金持ちの同級生が投げたせいで頬についたケーキを”落ちるな”と願いながら「誰よりも金持ちになってやる」と誓う。貧乏なのは俺が負けたわけじゃない。俺の親父が負けたんだと。そして不遇だった広島に決別するように高校の卒業証書を破り上京する。一貫してプロになることを目指し、下りのエスカレーターを駆け上っていく勢いでキャロルを結成、デビュー。
先日、バリバリに部活動をやっている高校生が「そんな暗い雰囲気で部活をやっていると遠征には連れて行けない。って顧問が僕に言うんですよ」と弱音を私に語ってくれたので、”成りあがり”の、横浜、キャロルの章を読み”はったり”に触れてみるよう勧めてみた。(家に”成りあがり”があるということだったので…)
そして「キャロルの矢沢」は解散後、「矢沢永吉」となる。
矢沢の28歳までを語ったこの本を私は18歳で読んだ。読んだ勢いで高校の卒業証書を破って、矢沢は横浜だったが、私は河合塾に進んだ。笑って欲しい。なんかの番組で矢沢ご本人が卒業証書を破ったことを後悔していると語っていたそうだ。そりゃないぜ永ちゃん。卒業証書って再発行できるんですかね?
次の”アー・ユー・ハッピー?”はソロになり50歳に至るまでの主に苦難が書かれている。中でも35億詐欺事件はBIGだ。
ところで、診療中は詐欺まがいの電話を私に取り次がないようにスタッフにはお願いしてある。しかし、中には近所の病院関係者の名前などを騙り、巧妙にスタッフをだまし私に取りつがずにはいられない気持ちにさせる電話もかかってくる。だまされたスタッフは落ち込むが、私は慰める「相手が本気でだまそうとしていることを、だまされないことを本気に仕事していない私たちが、100%防げるはずがない。矢沢でさえ、35億円だまされたんだから」と。かかってくる電話すべてにピリピリしてたんじゃ、いい病院は作れない。
私の友人は、いつかのその日、矢沢無き世界が来る日が不安だったのだ。不安を言葉で私と共有しなければいたたまれなくなったのに違いない。けれど、なんで曲も本も知らない彼女が?
足りないぜ!理解がまだまだまだ。矢沢に触れるにはもう一冊、あの本が必要だ。(続く)