院長ブログ

2022.12.11

運動について考える

もう8月のことになる。夏休みの初日は待っていた休みなのに、何も感情がわかない朝だった。
コロナ第7波のピークだったから、熱のない朝を、待っていた休日を迎えたことにも喜んでもいいのに。50年以上も生きていると、こんな状況にルーキーではないから、「なぜ?こうなったのか?」より「こうなることでのメリットは?」と考えた方が楽なことはわかっていた。
けれど頭で考えると「なぜ?」に陥りがちだ。その日は9時にはプールに行く予定だったので、半ば強制的に泳いでみた。小一時間の有酸素運動の後、少しはこれからの夏休みを楽しみにしていることに気が付いてほっとした。体を使いすぎるとじっとして休むように、心も動かさないことで守られている面もあるのかもしれない。以来、めまいや耳の不調の人には動けるようになったら運動をしてみては?と勧めている。でも、”運動は体にいいから”だけでは説得力がない。だいたい私は運動の何をわかっているのだろうか?

まず人間にマッチしている運動は何だろう?私には水泳はマッチしているが、人の体が泳ぐことに適しているとは思えない。もし”ドキッ!丸ごと哺乳類だらけの大水泳大会”があれば、上位はクジラ、イルカ、シャチなどが独占するだろう。アザラシやビーバーもいる中、我ら人間が決勝に出られるとは思えない。多分予選落ちだ。
では陸上では?”哺乳類オリンピック”が開催され、オリンピックのハイライト100m走の決勝にヌー、シマウマ、キリン、ハイエナ、熊、ヤギ、リスと人間の8種が進んだとしよう、人間代表はもう引退したけど絶好調だったころのウサイン・ボルトに出てもらう。推定される最高速度を参考にすると”サンダーボルト”なのにその背中を見るのはリスだけで、ヌーが5秒切って金メダルだ。二足歩行では四足歩行の速さに勝てない。
さて水もダメ、短距離もダメ。ならば人が持つ体の特徴でマッチする運動を考えてみよう。
まずは人間と一番近いチンパンジーを比べてみる。同じ霊長類で親戚のようなチンパンジーになくて人間にあるものを挙げてみる。
一つ目はアキレス腱だ。アキレス腱は筋肉を伸び縮みさせるゴムバンドみたいなものだ。それは歩くときには無用だが走るときに有用になる。足が着地すると足首が曲がりアキレス腱が伸びる、伸びたゴムバンドが戻ろうとするエネルギーを持つのと同様、アキレス腱に発生したこのエネルギーによって足首が伸びて地面から離れる。右足左足に交互に連続した運動が走ることになる。早く歩く動作より、軽くジョギングしたほうが足が楽だと思ったことは無いだろうか?それはアキレス腱がエネルギーを効率よく生み出しているからに他ならない。
次には土踏まずを挙げたい。チンパンジーには土踏まずはない。土踏まずのことをアーチというが、建築でアーチ構造とは橋やダムなどによくみられる上からの荷重に耐え安定させる構造である。
(横から足の骨格を見た絵)
足にアーチ構造があるということは体重の数倍荷重がかかるようにできているということではないだろうか。
アキレス腱と土踏まずは人間が走る動物であることを示唆している。
4足歩行の動物とは短距離では勝てないが長距離ではどうやら人間の方が有利だ。汗をかいて体温を下げるシステムを持つのは人間だけで、体が毛に覆われている他の哺乳類は汗をかけない。飼い犬が暑い日の散歩の後、口から舌を出してハアハアとしているのを見たことは無いだろうか?これは口を開けて熱を逃がしているのだ。また実験でチーターをトレッドミルに乗せ走らせたところ、直腸温が40度くらいになるとチーターは走るのを止め、それ以上走ろうとしなかった。体内に蓄積された熱を逃がしきれなくなった場合は動きを止めなければ死んでしまう。だから人間より短距離では速いサバンナにいるレイヨウも、人間が追い立てて熱中症になるまで長距離走らせれば狩ることができる。もし暑い夏に10㎞走れるなら、もう狩人と名乗ってよいのである。
実際アメリカでの50マイル≒80㎞のウマ対人間のレースでは圧倒的に人間の方が勝っているそうだ。
だけど、、、速く走るためではなく、長く走るための体を進化で得たのが人間なのに、走るのを含め運動を嫌う人がこんなに多いのはなぜなんだろう?