院長ブログ
2025.08.23
ダンスはうまく踊れない
昼休憩になればiPadに手が伸び、YouTubeを立ち上げる。
最近私を夢中にさせているのは「奥様が墓場まで持っていく黒い過去」だ。1.5倍速~2倍速で見てる。一つを見終わってもまた同じような番組が次から次へと上がってくるから、午後の診療までやめられない。
私の中には二人の別人がいるようだ。スタッフに言わせると”ゲスイ動画”を見たがる一人と、髪を掻きむしりながら「こんなことするために生まれたんじゃない!」と叫ぶもう一人と。
次々と画面をタップする行為はスナック菓子を食べるのにも似ていないか?ダイエットを考えるように集中力について考えてみることにした。
だいたい集中力とは何なのか?「集中力がなくなった」とぼやくと、当院の看護師には「ものすごく集中してYouTube見ているけどね」と返ってきたが、それじゃぁないのよ。何時間もゲームをしている我が子に「集中力あるわぁ」と思わないのと一緒で、私が欲しいのは”少しでもマシな自分になる”ような事に心を置き続けられるという集中力だ。
初めは集中力がなくなったのは年のせいだと思っていた。でも物事は1つの原因だけなのだろうか?
世の中の話題が続く時間が短くなっているという。ドライブレコーダーが売れるきっかけにもなった「常磐道でのあおり運転」事件を、2019年の当時は怒鳴る映像が繰り返し流れていたので覚えている人も多いだろう。しかし2020年の判決まで知っている人はどれだけだろうか?話題は急速に沸騰し席巻して消えていく。そのスピードは年々速まってきている。情報量が昔とは比べようもないくらい増えているので、1つ1つが消化される時間が短くなっている。大事なことに心を置いておけない世の中になっている。
その代わり近くに置いておくのはスマホで、ひっきりなしに情報にアクセスしている。情報を早くとらないと損するように思うのだろうか?ただ本当に損をするのはリアルな世界の自分で、心が今じゃなくスマホの向こうにあるヴァーチャルな世界につながっている場合、それこそスマホを机の上に置いておくだけで成績は悪くなる。
今から18年前の冬、私は旭山動物園を訪れていた。その頃はペンギンの散歩が話題になっていて、デジカメを握りしめてペンギンたちが園内を散歩する様子を撮影していた。「ペンギンの歩くかわいい写真を帰ったらみんなに見せよう」と、ペンギンの先回りしていろんな角度からベストショットを探して撮っていた。一番ペンギンが近づいたとき、ふとカメラを除けて自分の生の目でペンギンを見たときに、その可愛さに胸が射抜かれた。さっきまでファインダー越しで見ていた時とは比べようもないほどペンギンは愛らしく、もう撮影はしなかった。それから何年たっても、その冬の旅行を思い出すことがあっても、ハイライトは生の目で見たペンギンの行進だ。”今”を堪能する素晴らしさを感じた瞬間だった。


(ペンギンの散歩)
集中するとは”今”とダンスを踊ることなのかもしれない。
集中するとは”今”とダンスを踊ることなのかもしれない。
現代はたくさんの手がダンスを踊ろうと差し出される。おまけにメールの通知や、アマゾンでは”おススメ”といった、隙あらばダンスを邪魔するものも多い。私はたまたま近くにいた「奥様が墓場まで持っていく黒い過去」の手を取り踊ってしまった。本当の相手はあなたじゃない。
用心棒の黒服に邪魔が入って来ないようにしてもらおう。そして、魅力はあるけれど中身のない相手の手を振り払って、未来の自分が幸せになれる”今”に手を差し出そう。