院長ブログ

2025.07.21

プロバブルな世界

エンティティ(前回のブログ参照)のような神の如き知識を持つAIが診察室に座っている未来は、今日の担当医をジョージクルーニー風?それとも財前五郎風?と選べる。ドMの患者さんには米倉涼子風の人気が高いかもしれない。ヴァーチャル感のために、ホログラムで彼ら彼女たちは診察する。私は生身の人間部門にひっそり登録されている。ホログラム診察に慣れてしまっている子供には鼻吸引する私は刺激が強すぎて人気がない。。。
現実世界では2013年IBMのスーパーコンピューター”ワトソン”が医療界に進出してきた。ワトソンの売り出し文句はこうだ。「すでに医学の教科書を200冊以上、医学雑誌300冊分の情報を取り込んでいて、さらに1日に新しい論文を5000本読める。加えて患者を診察することも可能」
毎月の医学雑誌さえちゃんと読んでいない私はワトソンのようなAIの影におびえるしかない。けれどボディビルダーが格闘技で勝てないように、魅せる知識と実践する知識は違う。でも魅せる効果は絶大の様でワトソン君の使用料は100万ドルだそうだ。
AIはパターン認識が得意だ。顔認証はこのパターン認識の応用でもある。ということもあってイメージしやすいと思うが、医療では画像診断の放射線科が最もAIの浸入が激しく、今や学習したAIと熟練の放射線科医の画像診断レベルは同等という。熟練の放射線科医の年収はアメリカでは40万ドル(!)と高額で医師の中ではトップクラス、かたやAI画像診断はワトソン君より安価の1000ドルで1日2億枚以上の読影してくれることを考えると放射線科医をAIに変えてしまうことの経済的メリットは大きい。
この例はAIに駆逐されない職業を将来子供のために考えている親御さんにはいいヒントだろう。非常に高度なパターン認識が必要とされる上に、大した利益を生まない職業がねらい目だと答えが出ているから。
さて、では放射線科医が減っているかというとそうでもないらしい。どうやらふたを開けてみると、減ったのは放射線科の中の画像診断部門で、放射線治療に進む者や、AIの子守という新しい種類の仕事に進む者もいて、放射線科医自体は増えているそうだ。
つまり放射線科医が無用になったわけではなく、放射線科医の仕事の中で画像診断という無用になった部分ができた。その無用に充てていたコストを今度は別のことに分配すればやっぱり必要とされるのである。
私の親の代までは主に男性は高校まで学び、後40年”仕事だけ”していればよかった(というか許されていた)。私は父親が資格の勉強をしている姿は見たことがない。飲んだくれて、くだを巻いている姿は何度も見たが。もう、そんな時代はとっくに終わったのだ。

Chat-GPTがうちの看護師さんから奪ったのはイラストの仕事だ。彼女が人から頼まれたイラストだけをなりわいにしていたら失業していただろうが、イラストも描く看護師だったので職を失うことは無い。
雇用の市場に残るには”~だけ”じゃない自分に作り変えなければならない、ということか。知識の量では勝てない相手に勝つには変化させていくしかない。この変化しようとする能力が実践する知識の正体なのかもしれない。画像診断”だけ”やっていた放射線科医は駆逐されてしまうだろう。もちろん他人事ではない。
テクノロジーというナイフは動物としての人間には不必要なほどの豊かさを切り出してくれた一方で、喉元にそれを突き刺し生涯学び続け、繰り返し自分を作り変える努力を要求してくるだろう。
そういう努力しつづけることが、AIとのノアの箱舟中にとどまれる条件としたら、私はいつまで乗っていられるんだろう。AI化の洪水が40日ぽっちで鎮まることは望めないから、私もいつかは降りなければならない。
AIを考えると暗くなりがちなので、いつも明るく受診してくれる小4の女の子に「人にあって、AIに無いものって何だと思う?」と相談したら「”かわいさ”っしょ」とギャルで答えてくれた。”かわいさ”かぁ~。それを保ち続けるには、確かに実践する知識がいるよね。